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現場の痛みを、社会を変える一歩に。『HEAP PITCH STAGE』を開催しました
株式会社キャピタルメディカ・ベンチャーズは2026年2月14日、医療・介護・福祉領域の起業応援コミュニティ「HEAP」の最終発表会「HEAP PITCH STAGE」を開催しました。約100名のメンバーが1年間にわたり社会課題と向き合ってきたプログラムの集大成として、選抜された5名が課題解決プランを発表しました。
【登壇者】※五十音順
- 石田奈奈子(会社員)|ぶーけあ「支援の時間」を増やす障害者支援施設のための記録アプリ
- 河村峻太郎(株式会社ゆらりす 代表取締役/東京科学大学 博士課程)|ゆらりす – 尿検査をバリアフリー化する採尿サポートパッド
- 篠田翔太郎(フリーランス)|「外食の壁」をなくすー バリアフリーグルメ飲食店レビューサイト
- 鈴木啓吾(株式会社Ordinize創業準備中)|訪問看護・訪問介護事業者のための経営支援ツール「IROHA」〜管理者ひとりで悩まない経営をともにつくる〜
- 松山峻大(Memorial Compass/滋賀医科大学医学部医学科5年)|最後まで思いを届けられる世界をめざして~認知症の患者さんの意志疎通支援システムの開発~
【審査員】
- 石井洋介|おうちの診療所中野 院長/株式会社omniheal 代表取締役/株式会社エンタケア研究所 CCO/医師
- 河村由実子|株式会社REHANOWA 代表取締役/理学療法士
- 青木武士|株式会社キャピタルメディカ・ベンチャーズ 代表取締役
「なぜ自分がやるのか」5人が語った原体験と課題解決プラン
各登壇者に与えられたのは7分間のピッチと10分間の質疑応答。審査の最重要観点は「解決すべき課題に共感できたか」。技術やビジネスモデルだけでなく、「なぜあなたがやるのか」が問われる場です。
トップバッターを務めた松山峻大さんは、認知症の当事者と家族の意思疎通を支援するツール「Memorial Compass」を発表しました。きっかけは3年前、認知症の祖父から「あんたは何の仕事をしてるんや」と言われたこと。見た目は同じなのに、まるで別人と話しているような感覚。その体験が松山さんを突き動かしました。
滋賀医科大学医学部医学科5年生ながら、国内外で150名以上にヒアリングを実施。音声・動作・表情から当事者の意図をリアルタイムで推定し、家族への接し方を提案するアプリを開発中です。NEDOのNEP開拓コースへも採択されています。
審査員からは「家族は“やり方がわからない”のではなく“やってあげたいと思っていない”のでは」という鋭い問いや、目指す世界観やアウトカムの測り方を問う質問が投げかけられました。松山さんは「認知症になっても、今まで通り楽しく過ごせるところまで持っていきたい」とまっすぐに答えました。

続いて登壇した鈴木啓吾さんは、訪問看護・訪問介護事業者のための経営支援ツール「IROHA」を発表。「管理者が1人で悩まない経営を共に創る」というミッションを掲げます。
鈴木さんがこの課題に取り組む理由は、自身が当事者だからです。5歳の娘は生まれつき重い障害があり、24時間人工呼吸器を装着しながら暮らしています。それでもいまだにサービスを安定利用できないことがある。この現実を変えたいと、総合商社での19年間のキャリアを手放す決断をしました。
ステーション管理者へのヒアリングから見えてきたのは、管理者に業務が集中しすぎて経営と向き合う余裕がないという課題。経営診断から解決策の実行支援までをワンストップで担う構想を示しました。
審査員からは課題への共感とともに、「まず自分で訪問看護事業を運営して徹底的に現場理解を深めたほうがいいのでは」と率直なアドバイスも。鈴木さんが「訪問看護ステーションの開業も予定しています」と明かすと、会場からうなずきが広がりました。

3番目に登壇した篠田翔太郎さんは、バリアフリーな飲食店を探す検索サイト&アプリ(バリフリグルメ)を発表しました。
「仮に今日、皆さんと仲良くなって二次会に行こうとしても、私には高い壁があります」。冒頭のこの一言に、会場の空気が少し変わりました。飲食店レビューサイトで「車椅子入店可」と書かれていても、実際には段差で入れない。生まれつき脳性麻痺の当事者であり、車椅子ユーザーである篠田さんだからこそ語れる、切実な現実です。
客観的な数値(段差の高さ、通路幅など)とユーザー参加型の口コミで「ここなら絶対に行ける」という確信を届けるアプリを構想。発表当日からクラウドファンディングも開始しました。
審査員からは「やるなら今しかない」と背中を押す声や、「心理的なバリアも取り除いてほしい」という提案も飛び出しました。審査員の1人がその場でクラウドファンディングに支援する一幕もあり、会場は大いに盛り上がりました。

4番目の発表者、石田奈奈子さんは、障害者支援施設の「支援の時間」を増やす記録アプリ「ぶーけあ」を発表しました。原点は、施設に入所しているダウン症の弟の存在です。弟が他の利用者に腕を噛まれて怪我をすることがある。そんな不安から、施設での事故を減らしたいという想いでプロダクト開発を始めました。
会社員として働きながら1人で開発を進める石田さん。チェックと音声入力だけで連絡帳が作成でき、PoC導入施設では記録時間が約半分に短縮されました。さらに利用者の行動の前後関係をグラフ化し、支援方法の改善につなげる機能も開発中です。アプリ名「ぶーけあ」には、施設と家族で利用者さんを見守る「花束(ブーケ)」を届けたいという想いが込められています。
審査員からは「記録業務の改善が本当にコアの課題なのか」と本質的な問いも。石田さんは、自閉症の利用者特有の行動パターン分析こそが差別化のポイントだと説明しました。

最後に登壇した河村峻太郎さんは、オムツをつけた方の尿検査を簡単にする採尿サポートパッド「ゆらりす」を発表しました。
3歳児健診には尿検査が含まれていますが、オムツの子どもから尿を採取するのは非常に大変です。河村さんは、重症心身障害児のお母様から「子どもの採尿がとても大変」という声を聞いたことをきっかけに、この課題に取り組み始めました。
オムツに貼るだけで採尿ができるパッドを開発し、特許も出願済み。肌に優しく装着も簡単で、既にECでの販売も開始しています。課題は3歳児健診だけにとどまらず、介護施設での高齢者の採尿負担にも広がっています。
審査員からは検査精度やスケーラビリティについて鋭い質問が飛びましたが、河村さんは研究報告の根拠を示しながら冷静に回答。「お母さんの負担を一瞬でも助けられるサービスは福音でしかない」とエールが送られました。

審査難航、全員に最優秀賞を渡したかった。それでも選ばれた3名
フューチャーインパクト賞には松山峻大さん。「今日もまだまだ甘いなと思ったので、チームと一緒にやっていきます」と決意を語りました。
オーディエンス賞は、会場の参加者投票により篠田翔太郎さんに。「まだ始まったばかり。神輿を担ぐようなイメージで、一緒に動いてほしい」と力強く呼びかけました。
そして最優秀賞は河村峻太郎さんへ。「まさかいただけるとは」と驚きつつも、「当事者の原点からスタートされている皆さんの熱い輪の中に入れて嬉しい。一緒にこの輪を広げていきたい」と感謝を述べました。


「想いが燃えるほど、誰にも真似できない」審査員が贈った言葉
石井氏は「自分じゃないと解決できないものでなければ、誰かがパッと作ってしまう時代。皆さんの想いが燃えれば燃えるほど、誰にも真似できないものになる」と語りました。
河村氏は登壇者一人ひとりにメッセージを送り、「チャレンジしている姿を見るだけで元気をもらえる時間だった。この熱量を持って、一緒に社会課題を解決していきましょう」と呼びかけました。
青木氏は「5名全員に最優秀賞を渡したかった」と前置きした上で、課題の解像度を上げるために大切なことを3つ挙げました。1つ目は「現場に行くこと」。どんなサービスも、実際にオペレーションした経験から生まれる解像度にはかなわない。2つ目は「歴史を見に行くこと」。なぜこの課題が今まで解決されてこなかったのか、先人たちの挑戦と失敗を知ること。3つ目は「制度・文化・慣習の壁を理解すること」。それらの壁をなぜ今なら突破できるのかを考えることが、課題への本当の理解につながると説きました。

名刺交換の先に生まれた「一緒にやりたい」の声
結果発表後も「自分もまさに当事者で、一緒に取り組みたい」「今やっている仕事でつなげられるかもしれない」といった声が飛び交い、懇親会への移動時間ギリギリまで会場に残って交流する参加者の姿が印象的でした。
5名が見せてくれたのは、「目の前の1人を幸せにしたい」という想いで走り続ける姿でした。この日生まれた熱量が、どんなかたちで医療・介護・福祉の現場に届いていくのか。その続きは、それぞれの現場で始まっています。

<HEAPについて>
HEAP(Healthcare Entrepreneurship Acceleration Program)は、起業を通じて課題解決を目指す医療・介護・福祉従事者、学生を応援する200人のコミュニティです。東京都が実施する、多様な主体によるスタートアップ支援展開事業「TOKYO SUTEAM」の協定事業者として2024年より活動を開始し、2025年度は第2期を実施しました。本コミュニティでは、オンラインでの情報交換に加え、月1回の講義・課題、個別メンタリング、起業家との交流イベントなどを開催。各コンテンツを通じて、ヘルスケア起業に向けた学びを深め、事業アイディアの検証を繰り返しながら課題解決プランを形にしていきました。
